
書籍紹介「使える行動分析学: じぶん実験のすすめ」です。
今回は行動アシストラボ理事/研究員の齊藤が担当いたします。
「行動分析学入門」は読んだことがあるだろうか。その著者の1人である、島宗理氏が書いたのが本書だ。
氏はこれまでに「パフォーマンスマネジメント」という、現実的な例を用いて原理を説明する本も書かれているが、本書は”実験”、”実践”することに重きを置いている。
目次は以下の通り。
- 第1章 じぶん実験と自己理解
- 第2章 行動分析学と自己実現
- 第3章 じぶん実験レポート
- 第4章 じぶん実験の進め方
- 第5章 広い「じぶん実験」の適用範囲
ここから読むのがオススメ!
各章の内容は後述するが、この本を一言で表すなら『 ひとりでできる取組み事例の宝庫 』である。
行動分析学の有効性を既に知っていて、その原理についてもっと詳しく知った上で実験に取り組みたい!という方は第1章から順に、とにかくじぶんで取り組んでみたいことがあるので、どうやるか知りたい!という方は第3章から、なんか使えるらしいけど、どんな風に使えるのか知りたいなぁ、という方は第5章から読んでいただくのがオススメだ。
うまくいかないときもある、でも…
本書の特徴の1つとして、実験の成功話だけで終わっている話ではない点がある。
よくあるのは、事例集として成功例が載っているものだが、実際にやる側としては、失敗したときやうまくいかない時の対応方法も知りたいだろう。
その点本書は、どの事例を見ても、どこがうまくいった、どこがうまくいかなかった、原因をこんなことと仮定してまた実験してみた、そうしたらこうなった。
という感じで説明がなされているため、これからやってみた時を想定できるし、失敗した時の対策の引き出しも増える。
どんな風に使えるか?は第5章から!
第1章では”実験”というものについて、歴史を簡単に紐解きながらその有用性やこれまでの批判などを解説している。
そして、行動分析学といえば「好子」「嫌子」と「強化」「弱化」の原理。
第2章では、これらを含めた原理や、死人テスト・具体性テストなどの行動分析学に関わる各種原理についての説明が、事例を用いて完結になされている(本書51〜61ページ)。
ここで興味を惹かれたのは、原理についての8種類の説明それぞれに”わかりやすい一言”がついている点だ。
例えば、
好子出現の強化 → 「やめられないとまらない」
好子消失の弱化 → 「忙しくてできない」
などなど。
残りの6種類の表現についてはぜひ本書を読んでいただきたい!
私はこれを読んだだけでなんだかウキウキ楽しい気分になった。
一方で行動分析学では、よく起きる誤解がある。
「結局、飴と鞭なんでしょ」
「とにかく褒めれば良いんだ」
「エサで釣るのか。まるで動物のようじゃないか」
本書71ページ以降ではその誤解を解くための説明がわかりやすく端的になされている。
これまで何か引っかかりを感じていた方には是非読んでいただきたい。
第3章は、2人の自分実験についての紹介だ。
p78からは片付けができない女子、p92からはマッチョになりたい男子の自分実験の全体像が書かれている。
本文にもあるが、他人の実験内容は自分のテーマとは別だから参考にならない、なんていうことはなく、事例の中の考え方、取り組みの流れ、測定の方法などは参考にできる(応用・工夫できる)ところがたくさんある。
ぜひその視点で読んでいただきたい。
第4章ではじぶん実験の進め方について詳細に説明がなされている。
標的行動の見つけ方、測定の仕方、記録の付け方、うまくいかないところの分析の仕方、さらに次の仮説検証の仕方などだ。
そして第5章では、島宗先生の教え子さん方を含めた10名のじぶん実験が紹介されている。一人一人の内容はそんなに長く書かれているわけではないのだが、どんなきっかけで、何を変えたくて、どこに注目をして、どう記録して、どう分析してどのように変えていったか、ということがとても簡潔にわかりやすく述べられている。
さらには、各事例の最後には学生さんの喜びの声も書かれているので、読んでいて元気が出てくるというか、「よし、頑張ろう!」という気持ちにさせてくれるところが個人的にとても気に入っている。
より身近に感じられる良書をぜひ!
そんなわけで、行動分析学というものを知ってはみたものの、結局どう使えばいいのかわからないという方にこそこの本はオススメだ。
決して頭でっかちではなく、現実としての事例がたくさん掲載されているので、(専門用語はあるものの)行動分析学を知らない人に知ってもらう意味でも読んでいただける良書ではないかと思う。