
書籍紹介「臨床行動分析のABC」です。
著者はユーナス・ランメロ、ニコラス・トールネケ 監修松見淳子 監訳、武藤崇、米山直樹です。出版は日本評論社で初版が2009.1.20です。
行動アシストラボ研究員の堀越が担当します。
一番のオススメ本です
「なんかすごそう」
本書をペラペラめくっただけでもった印象です。正直よくわからないが“行動分析学”とタイトルしているだけで衝動買いしたのが本書との出会いでした。2年位前の話です。
つい先月まで積読でしが、先月やっと手に取る決意をしました。決意と書きましたが、決意がなきゃ読めない本ではありません。初めてABAに触れたタイミングだとちょっとキツイかもしれませんが。
読後の感想ですが、本書をより味わおうとするならばABAの原理原則をある程度知っている。(ABC分析やオペラント条件付けの4随伴性を説明できるくらい)ABAを実践してつまずいた経験があるとより感慨深い印象を持たれると思います。
本書はABA-LABOで私が紹介する3冊目の本ですが、「一番のオススメ本です」と前置きして本書の特徴に移ります。
目的は「行動を理解し、その行動に対して何らかの影響を与える」こと
行動的心理療法の基本的な「見方・捉え方」を知るために何を読めば良いか?
上記問いに対して「この本です!」とリコメンドできる内容を目指して書かれています。
この「見方・捉え方」は本書の中核をなす考えで、本書を通して出てくる事例に対していつも投げかけられる問いです。この問いに答えるために、さまざまな考え方を紹介しています。
それは著者たちの目的である「行動を理解し、その行動に対して何らかの影響を与える」ことだからです。「見方・捉え方」の土台は何かというと、機能的文脈主義という哲学です。意味するところは、以下を参照してください。
- 機能を理解するということは、行動の目的(結果)を理解することである。
- その「結果」は、特定の「文脈」の中で生じている。
この見方・捉え方で有機体(人)の行動の理由を読み解こうとする「問い」が発生します。
これをもとに、さまざまな事例を出し、ABAの原理原則の理解を深めるとともに、実際の活用場面を状況に応じて細かく説明が加えられているところが、私の知りえる範囲ではありますが、他の本にはないポイントになっています。
- イントロダクション
- 第1部 行動を記述する
- 第1章 問題を行動のカタチ(形態)から捉える
- 第2章 行動を観察する
- 第3章 文脈の中で行動を捉える
- 第2部 行動を理解する
- 第4章 レスポンデント条件付け
- 第5章 オペラント条件付け 4つの随伴性と消去
- 第6章 オペラント条件付け(2) 刺激性制御
- 第7章 関係フレーム
- 第8章 ABC分析を応用する
- 第3部 行動を変える
- 第9章 機能分析
- 第10章 行動変容に向けての会話
- 第11章 3つの原理と実践につなぐ
- 第12章 実践の原則(1)
- 第13章 実践の原則(2)
ABAは哲学「機能的文脈主義」に裏付けられている心理学
機能的文脈主義
先ほど「他の本にはないポイント」と書きました。私の感じたポイントを紹介します。
まず、ABAは哲学「機能的文脈主義」に裏付けられている心理学という観点です。浅学で哲学のところは深く説明できないですが、少なくともはじめから「機能」にフォーカスせずに、「見方・捉え方」としているところが肝だと思います。
もちろん「機能」を度外視しているわけではなく、ABAの機能を最大限に引き出すには、アセスメント(見方・捉え方)が必要だと現場で感じているからです。福祉職でない方に向けて書くと、単純に考えて、設計図無くして建物は建たないという理屈と同じです。
行動を変えるということは、リフォームするのと同じです。今ある素材をどう加工するか、新しい素材をどう組み合わせるかと考えますよね。目的は、環境に対して家をどのように機能させるかという考えに似ています。
本書で面白いと思うところは、環境にはセラピストも含まれることです。当然と言えば当然ですが、セラピストとクライエントの相互の関係を機能的にするには、セラピストの「見方・捉え方」を磨いておく必要があります。
その観点の説明が充実しているところも魅力的な本書です。
関係フレーム
特に障害関係のABAの本にあまり載っていない「関係フレーム」の考えは、とても示唆にとんでいます。関係フレームは言語行動をどう捉えるかという観点で書かれています。
関係フレームは人間だからこそ(言語を持ち得るからこそ)できる行動です。しかし、真の意味で使いこなしている人はどのくらいいるでしょう。いや、「真の意味で言語行動を機能的に使いこなしているのか」と疑問を持てる人はどれくらいいるでしょう。
この問いのポイントは、言語が行動に影響を与える力はとても図りえないことです。空想的な発想を言語で紡いだとしても、それが結果的に現実で機能させることができます。
簡単な例でいうと「明日、どっさり仕事があるんだよなぁ。上司怖いし本当に行きたくないと想像した人がいるとします(想像も言語がかかわっているところがポイントです)。このように、出社しなくても結果をイメージして翌日の行動を制御(家にいる)できるのは関係フレームのなせるワザです。
ネガティブな事例でしたが、ポジティブな事例もあります。発明はポジティブな側面の一例でしょう。
ABAを学ぶに当たり、レスポンデント条件付け、オペラント条件付け、関係フレームはとても重要な要素です。
事例に基づき、これらが単独に説明されているのではなく、それぞれの原理と“協調”しながら、「見方・捉え方」に焦点を当てている。それに基づいて状況を捉えていく過程は、個人的な見解ですが、シビレルものがあります。何度「スゲーなぁ」と呼んでいるとき口にしたか。
ABAとして面白いのは、物語としておもしろいのではなく、それを実践で使える点が面白いです。
極論、全ての人に読んで欲しい!
どの職業でも「自分を変えたい」と思う方は必見です。
極論、全ての人に読んで欲しい!
そう、ABAはすべての人に学んで欲しいと本気で思える心理学、いや哲学だと思っています。
いつも思うのですが、全てを知らなくてもちょっと使えるところから使えばいい。それは、一流シェフにならなくても「料理はできるでしょっ」という理屈と同じ。どのような学問でも使ってこそ伸びます。
ABAが他の学問と一線を画すのは、あなたの行動の基盤として機能すると確信しているからです。私は「料理ならできるっしょ」の類のひとりですが、効果は体験しています。
ぜひ、読んで行動して効果を味わってみてください。
暑苦しい紹介文を読んで、良かったと思える日が来ると思います(笑)