
書籍紹介『メリットの法則 行動分析学・実践編』奥田健次著です。
担当は愛里です。
行動分析学に関する新書の入門書として、私の中で真っ先に名前が挙がるのがこの1冊。
実は人生で初めて行動分析学と出会った、私をこの世界に引き込んだ思い出深い1冊でもあります。
この本を書いている奥田さんは、自身が発達障害や自閉所などの障害を抱えるお子さんらの療育に関わるスペシャリストであり、それも手伝って、本書の中で取り上げられている数ある事例の中には障害を持つ子供に関する事例も多く出てきます。
本全体で取り上げられている内容は、著者本人があとがきで”マニアックな喫茶店のよう”と表現するように、多少偏りはあるものの初心者が初めて触れるにはちょうどいい塩梅。
サブタイトルに「実践編」とありますが、これはおそらく辞書的な説明ではなく現場の実例に基づいた説明が主だからでしょうね。
もし行動分析学の全体像を網羅的に、かつ短時間で知りたいのなら、杉山尚子さんが書かれている「行動分析学入門」(集英社新書)がおすすめですが、1つの概念を説明するために費やすページ数の多さから、初心者の理解のしやすさはメリットの法則に軍配があがるのではないでしょうか。
人はなぜその行動をするのか
本書の全体を通して貫かれているテーマは「人はなぜその行動をするのか」を行動的に説明する、ということです。
一般的な考え方や一般的な心理学では、行動する理由は”こころ”にあると捉えることが多いでしょう。
他方、本書で説明する行動分析学の見方では、その理由は、すべて、具体的で、見える変化によって説明できる、とします。
まるで数学の世界かのように法則を用いて説明されるそれは、読んでいてとても気分爽快です。
そんなに簡単に解決できるのか
数ある事例を知れば知るほど、これは魔法か何かなのか?と目がだんだんと見開かれていったことを今でも覚えています。
奥田さんの取り上げる事例とその解決法はとてもあざやか。
しかし、その解決法にたどり着くまでには見えない時間、見えない手順が数多くあることでしょう。
初めて本書と出会ってから7年になりますが、今再読してもまだまだ学べるか所はあり、逆にこれだけ学んできた今だからこそ初めて浮かぶ疑問などもあります。
そこから察するに、本文内ではあっさりたどり着いている解決方法には、書かれていない部分が多々あり、またその道中は本当に地道なものだと思います。
前に進むことこそが最重要
行動分析学のスタンス自体もそうですが、本書で奥田さんが強く語るものとして、前に進むにはどうしたらいいかを考えることが一番重要、というものがあります。
いわゆる”こころ”がどんな状態であるか、を求めることよりも、今目の前の問題を解決して前に進むことの方がよっぽど有益で大事なことだろうということです。
これはかなり賛否両論わかれるところであり、またこれまでの慣習との戦いな部分もある気がします。
なかなかナイーブな部分ですが、奥田さんは全く臆することなく、このあたりについても各所で強くかつ丁寧に語っています。
彼が語るスタンスや考え方を正確に受け止めるためにも、とばしよみすることなく一言一句逃さずに読んでいただきたいですね。
最後に
新書サイズで文字サイズも大きめ。
ページにして220ページ(目次・あとがき込み)。
事例も具体的で、1つのことを説明するために割かれるページ数も多いため、行動分析学に最初に触れるなら大変おすすめな1冊です。
ぜひこの1冊で目から鱗が落ちる体験をしてみてください。