今日のテーマは弁別刺激です。

前回で確立操作をお伝えしましたが、弁別刺激と確立操作はしばしばどちらがどちらか分からなくなって混乱してしまいます。

基本を押さえれば分かりやすくなりますので、少しずつ読み進めてください。

弁別刺激とは

同じ行動を実行しているにも関わらず、強化されるときとされないときがあります。

あるいは弱化されるときとされないときがあります。

確立操作も似たような働きをしますが、弁別刺激によっても強化・弱化されたりされなかったりすることが起きるのです。

では、その弁別刺激について例を使って解説していきましょう。


2つ目の例も見てみましょう。


洗い物の手伝いの例1、一時停止で止まらない例2。

それぞれAとBでどこに違いがあるのかに着目してください。

行動は同じであるにも関わらず、その後に生じる結果が異なっていますね。

このようなケースをどう分析すればいいのでしょうか。

例1の場合も例2の場合も、AとBのどこかが違うがために、その後に生じる結果が変わっています。

その違いを作り出しているのが弁別刺激。

では、弁別刺激とはなにか。

行動が強化・弱化されることを示唆する先行刺激であり、弁別刺激によって、行動がどのような文脈で強化・弱化されるのかを記述・理解できるようなります。

次章でもう少し具体的に説明します。

弁別刺激SDとSΔの例1

いきなりややこしそうな言葉が出てきましたが、あまり難しく考えずに、単に分類するために記号がついているくらいに捉えてください。

弁別刺激「SD(エスディー)」と「SΔ(エスデルタ)」について説明します。

では例で説明していきます。


前章の例ですね。

お母さんが家にいるとき、ご飯を食べた後に自分の分の食器を洗って片付けたら、お母さんから「ありがとう」と言ってもらえました。

Bの例も見てみましょう。


お母さんが外出しているとき、自分でご飯を用意して、その後食器を洗って片付けました。

帰宅したお母さんはそのことに気付かず、何も言ってもらえなかった。

このAとBを比べてみると「お母さんが家にいる」のか「お母さんが外出しているのか」に違いがあります。

ABC分析で表現するなら、先行刺激が異なっているということになります。


Aのお母さんがいるときは「ありがとうと言われた」という強化の結果が生じます。

行動随伴性ダイアグラムでは「ありがとうなし → あり」となっていますね。

この場合、強化の条件となっている「お母さんがいる」という先行刺激が「SD」となります。


一方、Bのお母さんが外出している時は「お母さんに気づいてもらえなかった」という結果で、強化にも弱化にもなっていません。

行動随伴性ダイアグラムでは「ありがとうなし → なし」で変化がないことが分かります。

この場合、強化の条件とはならない「お母さんが外出している」という先行刺激は「SΔ(デルタ)」となります。


お母さんがいるSD(エスディー)の下では、行動に伴う変化が「好子なし→あり」になります。

好子出現による強化です。

一方、お母さんが外出中 SΔ(エスデルタ)の下では「好子なし→なし」であり、行動は強化されていません。


お母さんがいるというSDはその行動が強化される可能性を示唆しており、SDの下では行動の頻度が増え、お母さんがいないという「SΔ(エスデルタ)」では、行動の頻度は増えていかないということです。

ちょっと難しい言葉では言っていますが、よくよく考えてみると当たり前のことですよね。

お母さんがいるから、お母さんから「ありがとう」がくる。

いなければ気づかない。

これをABC分析や行動随伴性ダイアグラムで記述すれば、先行刺激がSDなのかSΔなのかによって、結果に影響が出てくるという表現になるのです。

弁別刺激SDとSΔの例2

もう1つの例も見ていきましょう。


運転中、一時停止の交差点で他の車が来ていなかったし面倒だったので、止まらずそのまま右折しました。

Aのケースでは問題なくそのまま進めたわけです。

一方、Bのケースはどうだったかというと「警察がいる」という違いがあったため、止められてしまっただけでなく違反点数もつけられてしまいました。


そりゃそうだよなと思わなくもないですが、この2つの違いをABC分析で記述するには弁別刺激を使う必要があります。


Aのケースの「誰もいない」は「SΔ(エスデルタ)」です。

誰もいない SΔ の下では問題なく進めるため「好子あり → あり」となり、強化も弱化も生じていません。

一方、Bのケースの「警察がいる」は「SD(エスディー)」です。

警察がいる SD の下では止められてしまうことで「好子あり → なし」となり、好子消失の弱化が生じています。

加えて違反点数もつけられてしまったため「嫌子なし → あり」となり、嫌子出現の弱化も生じています。


同じ場所で同じ行動をしているにも関わらず、誰もいない SΔ か 警察がいる SD によって行動の結果が全く異なっています。

SD(エスディー)、SΔ(エスデルタ)がどこに影響を与えているのかに注目してください。

SDかSΔかによって行動に伴う変化それ自体が変わります。

今回の例では、弁別刺激であるSDはその行動が弱化される可能性を示唆しており、SDの下では行動の頻度が減少し、SΔの下では行動の頻度が減らないということになります。

刺激性制御の獲得

SD(エスディー)やSΔ(エスデルタ)の下で、行動が強化されたりされなかったり(または弱化されたりされなかったり)することを繰り返すと、それらの先行刺激が刺激性制御を獲得します。


先程の例を使うと、お母さんがいる SD という状況で食器を洗って片付けると、お母さんから「ありがとう」と言ってもらえます。

強化されていますね。

一方、お母さんが外出中 SΔ という状況で食器を洗って片付けても、お母さんには気づいてもらえません。

こちらは強化されませんでした。

こういったことを繰り返していくと、やがてお母さんという先行刺激が「刺激性制御」を獲得します。


刺激性制御の獲得とは「SDの下では行動が生じ、SΔの下では行動が生じなくなった状態」です。

いくつか他の例をあげてみると、例えば信号機です。

青信号というSDが提示されると私達は歩き出しますし、赤信号では止まります。

運動会の100メートル走では、スタートの合図がSDとなって走り始めます。

スタートの合図がない状態、つまりSΔになりますが、この状態だと走り始めたりはしません(フライングになって競争相手より早くゴールするという強化が起きないため)。

サッカーのW杯期間中、試合のある日というSDの下では、試合の経過や結果を頻繁にチェックすることになるでしょう。

試合がない日というSΔの下では、それらの行動は生じません。

このようにSD、SΔの下で行動が強化されたりされなかったりすることを繰り返すと、SDの下では行動が生じ、SΔの下では行動が生じなくなっていくのです。


補足ですが、刺激性制御を獲得すると、行動を制御しているのはまるで先行刺激であるかのように思えてしまうかもしれません。

ただそれでも尚、重要なのは行動の結果です。

刺激性制御を獲得したとしても、行動が強化・弱化されなくなれば、やがてその刺激性制御は失われていき、行動は元に戻ることになるでしょう。

例えば、お母さんがいる状況で食器を洗ったけど何も褒めてもらえなくなったとしたら、お母さんがいる時も食器は洗わなくなるかもしれません(別の理由で行動が維持されればその限りではない)。

私達の行動の学習において、直接的に影響を与えるのは行動の結果であることを忘れないようにしてください。

弁別刺激と確立操作の働き

ここまで説明してきた弁別刺激ですが、冒頭で少しお伝えした通り、確立操作と混同しがちになります。

弁別刺激も確立操作も同じ先行刺激であり、かつ、行動の強化・弱化に影響を与えるため、実際の事例を分析しているとどっちがどっちか分からなくなって混乱してしまうことがあるのです。

そこで改めて弁別刺激と確立操作の働きの違いを比べてみましょう。


この例において、確立操作と弁別刺激はどれになるでしょうか。

この例の場合、確立操作は「過去の違反して以前の違反点数が残っている」で、弁別刺激は「警察がいる」になります。

まず注目して欲しいのは、弁別刺激である 警察がいる SD があるからこそ、止められたり違反点数が付くという結果が生じる点です。

警察がいなければ、一時停止で止まらなくてもこれらの結果は生じないですよね。

弁別刺激が存在するから、行動が弱化されているわけです。


一方、確立操作はどのように働いているかというと、違反点数が増えることへの痛みを増幅しています。

以前の違反点数が残っているから、そこに加算されてしまうと免許停止等のより厳しい結果に近づくことになります。

例えば違反点数が3点だったとして、その3点という嫌子がどの程度の痛みを伴うかは、行動の背景である「以前の違反点数が残っている」によって変わることが分かるかと思います。


以上のように、確立操作は「好子・嫌子の影響力の強弱」に影響を与えます。

一方、弁別刺激は「その行動が強化・弱化される可能性」を示しています。

分かりやすい比喩になるか分かりませんが、確立操作は音量のボリュームのようなもので、確立操作次第で音量(=好子・嫌子の影響力)が大きくなったり小さくなったりするイメージ。

弁別刺激は電源のON/OFFのようなもので、ONになっていれば音がなる(=強化・弱化される)し、OFFになっていれば音がなりません(=強化・弱化されない)。

弁別刺激と確立操作の比較表

確立操作と弁別刺激の違いについて表でまとめます。


先程も書きましたが、弁別刺激も確立操作も行動の前にある「先行刺激」です。

提示タイミングは行動の前になります。

またどちらも間接的にではありますが、行動の頻度を増やしたり減らしたりする働きがあります。

この2点が共通しているため、弁別刺激と確立操作はしばしば混同してしまうのではないかと思います。


違いに注目してみましょう。

確立操作は好子・嫌子を確立(影響力を強めたり弱めたりする)しますが、弁別刺激は好子・嫌子の働きには影響を与えません。

先程の例でいえば「過去の違反点数が残っている」という確立操作は、違反点数という嫌子の影響力を強めていました。

一方、「警察がいる」という弁別刺激は、違反点数の嫌子の働きには影響がありません。


もう一つの違いも見てみます。

弁別刺激は強化・弱化の可能性を示しますが、確立操作は強化・弱化の可能性を示しません。

警察がいるという弁別刺激は、「止められる」「違反点数をつけられる」という弱化の可能性を強く示しています。

警察がいるのに一時停止を無視すれば、どういう結果になるかは想像に難くないですよね。

一方、過去の違反点数が残っているという確立操作によって、一時停止で止まらずに進むことが弱化されるわけではありません。


以上のように弁別刺激と確立操作には共通する部分と異なる部分があります。

2つの違いを見極めるためには、異なる部分に注目してください。

そうすれば先行刺激の持つ機能から、それが弁別刺激なのか確立操作なのかを区別できるはずです。