ABC分析と行動随伴性ダイアグラムについてお伝えします。
ABC分析と行動随伴性ダイアグラム、やや難しい言葉ではありますが、行動を分析する時にこの2つを使えるようになると行動を理解しやすくなります。
ABC分析(三項随伴性)とは
まず、ABC分析について。
三項随伴性という言い方をする時もあります。
単に行動を記述しただけでは行動を説明したことになりません。
行動はある文脈とともに生じます。
行動をしっかり説明するためには、この文脈を踏まえて行動をみていく必要があります。
ABCの3つに分けて行動を分析することで、行動の文脈も含めて記述できるようになります。
例で説明します。
単に行動だけを切り取って「目の前の人を突き飛ばず」と記述した場合、この行動についてどう判断すればいいかは分かりません。
もしかしたら喧嘩をして突き飛ばしたかもしれないし、躓いて体制が崩れたので目の前の人を突き飛ばしたようになってしまったのかもしれません。
これを行動の文脈を含めて記述すると、より正確なことが分かります。
単なる行動の記述である「目の前の人を突き飛ばす」をABC分析で見ていきましょう。
ABCはそれぞれ「A:先行刺激」「B:行動」「C:結果」で、次のように記述します。
「A:車が来た」→「B:目の前の人を突き飛ばす」→「C:目の前の人が事故にあわずに済んだ」
どうでしょうか。
単に「目の前の人を突き飛ばす」と切り取ってみたのと、先行刺激でどういう状況か、そして行動の結果がどのようになったかまで、この枠組みで記述したら全く印象が変わると思います。
つまりABC分析をすることによって、どういう状況で行動が起きたのか、どんな目的で行動を起こしたのか、どういう流れ、ストリーが合ったのかということを含めて記述できるようになり、正確な行動の理解につながるのです。
逆に主観的なイメージで、行動を評価すると誤ってしまうことが多いということです。
例えば「ある子供が隣の子供の頭を叩いた」という行動の記述があったとします。
どうでしょうか。
どんな印象を持たれますか?
悪い子だから、あるいはいじめっ子だから叩いたという印象を持たれるかもしれません。
これもABCの枠組みで記述したら全く違う印象になるはずです。
そういったことが分析できるためにも、このABC分析が必要になるのです。
行動随伴性ダイアグラムとは
もう一つの行動の分析方法があります。
それが行動随伴性ダイアグラムです。
行動の前後で好子・嫌子が具体的に、どう変化するかを把握するのに有効です。
本講座ではこれまで好子が出現する消失する、あるいは嫌子が出現する消失するといったことを説明しましたが、それを記述できるのが行動随伴性ダイアグラムです。
行動の前後での好子・嫌子の変化を分析できます。
まずは「出現」の変化をみてみましょう。
ゴーヤを食べるという行動に伴う変化を記述しますが、行動する前には「ゴーヤの苦み なし」だったものが、ゴーヤを食べることで行動した後には「ゴーヤの苦み あり」になります。
ゴーヤの苦みという好子(あるいは嫌子)が出現したことを表現しています。
好子か嫌子かは人によって変わりますが、好子が出現していれば好子出現による強化、嫌子が出現していれば嫌子出現による弱化となります。
行動随伴性ダイアグラムによって、行動の前後で好子や嫌子が具体的にどう変化するかが分かるかと思います。
次に「消失」の変化です。
まず「うるさいアラーム あり」で、おそらく嫌子がある状態です。
ここで「アラーム停止ボタンを押す」という行動をしたら「うるさいアラーム音 なし」になりました。
おそらく嫌子と思われる刺激が「あり」から「なし」へ消失したことが分かるかと思います。
これは嫌子消失による強化になりますが、もし消失しているものが好子であれば好子消失による弱化ですね。
他にも出現も消失もしない「変化なし」というパターンをみていきます。
町中で声をかけられたり、家に訪問営業が来て「しつこい勧誘 あり」という状態だったとしましょう。
これに対して「やんわりと断る」ことをしても、相手が諦めなかったとしたら「しつこい勧誘 あり」のままだった。
「〇〇あり → 〇〇あり」なので、何かが消失しているわけではないことが分かります。
つまり、強化も弱化もされていません。
他の例もみてみましょう。
何か文章を書こうとしているとき、文字を書く前は「文字 なし」という状態です。
ここでペンのインクが切れていたとしたらどうなるでしょうか。
文字を書くという行動をしても、やはり「文字 なし」のままになります。
「文字なし→文字なし」です、何かが出現しているわけではないことが分かります。
この文脈では文字は好子と思われますので、好子が出現しないということで強化されませんので、インクが切れたペンで文字を書くことは繰り返さないわけです。
このように行動随伴性ダイアグラムを使うと「なし→なし」「あり→あり」という、変化がない状態も記述できます。
強化も弱化もされてないか、あるいは消去であることが分かります。(消去については今後改めて説明します)
繰り返しますが「なし→あり」か「あり→なし」であれば、行動が強化または弱化されていることが分かります。
それとも「なし→なし」や「あり→あり」であれば、強化も弱化もされていないか、消去されていることが分かります。
行動随伴性ダイアグラムは、行動に伴う好子や嫌子の変化を記述するのに最適なダイアグラムなのです。
ABC分析の手順
ABC分析を使う場合の手順について解説します。
ステップ1「行動」を書きましょう。
最初に分析対象となる行動を記述します。
死人テスト、具体性テストをパスできるようにしてください。
死人テスト・具体性テストについて忘れてしまった方は下記の記事に戻りましょう。
行動を記述したらステップ2「結果」を記述しましょう。
行動した後に起きるであろう結果を具体的に書いてください。
行動に伴う環境の変化が起きていますので、どんな変化が起きているのかを捉えます。
例えば「水を買う」という行動によって、どんな変化が生じるでしょうか。
シンプルですが「水が手に入る」という結果を記述します。
またその結果が行動を強化するものであれば(↑)、弱化するものであれば(↓)、強化も弱化もしないのであれば(−)と付記します。
水はこの場合、好子と思われるので好子出現による強化ということで(↑)を記入します。
水を買うことに対して別の結果も想定できます。
例えば、水を買えばお金が減ります。
お金という好子が消失することになるので、好子消失による弱化ということで(↓)を記入することになります。
最後にステップ3「先行刺激」を記述します。
水を買う前、どんな状況でどんなものがそこにあるでしょうか。
例えば「自動販売機」や「コンビニ」があるかもしれません。
水を買うためには必要な条件ですよね。
あるいは自分の水ではなくて家族のために買うのであれば「喉の渇いた家族」がそこにいるかもしれません。
このように行動がどんな状況・きっかけで生じたかを記述します。
尚、ステップ2「結果」とステップ3「先行刺激」は、どちらを先に書いても構いません。
分析対象の行動やその時得ている情報によって書きやすさが変わると思いますので。
ただ最初に分析対象の行動を書くことだけは忘れないようにしてください。
ABC分析についての補足
ABC分析を使いこなすには、基本的には繰り返し練習するのがいいです。
普段、目についた行動をABCの枠組みで説明してみることにチャレンジしてみてください。
ここでは分析に慣れるまでによくやってしまいがちな間違いをお伝えしておきます。
間違い1:レスポンデント行動を分析しようとする
レスポンデント行動とはどんなものだったでしょうか。
反射的なものが該当しますが、レスポンデント行動の原因は行動の前に生じる刺激です。
レスポンデント行動にとって、行動した後にどんな結果が生じるかは関係ありません。
結果が影響するのはオペラント行動です。
そしてABCの枠組みで分析する対象もオペラント行動なのです。
例えばジョギングをしている最中に汗をかくとしましょう。
これをABCの枠組みで記述すると「A:ジョギング中 → B:汗をかく → C:気持ちいい」といった感じでしょうか。
しかし「汗をかく」はレスポンデント行動です。
気持ちいいという結果によって繰り返し汗をかくわけではありません。
ジョギングによって体温が上昇したから汗をかくのです。
レスポンデント行動の原因は、行動の結果ではなく行動前の刺激にあることが分かると思います。
ABCの枠組みは行動に伴いどのような文脈で、どのような結果が生じるかを分析するものです。
レスポンデント行動をABCで分析しようとして意味がありません。
間違い2:死人テストをパスしない行動を分析しようとする
行動を記述する際に、死人テストをパスしないものを書いてしまうことがあります。
一番多いのは受け身や否定形を書いてしまうことでしょうか。
例えば「A:喫茶店にいる → B:ケーキを注文しない → C:太らずにすむ」でしょうか。
この場合、「ケーキを注文しない」だと死人テストをパスしませんので、行動ではありません。
このような書き方をしてしまうと、増やしたり減らしたりすべき行動が曖昧になります。
ですので、本来であれば「A:喫茶店にいる → B:ケーキを注文する → C:太ってしまう」といったように書いた方がいいでしょう。
これであれば「ケーキを注文する」という行動を減らせばいいことが分かりやすいです。
間違い3:具体性テストをパスしない行動を分析しようとする
死人テストだけでなく、具体性テストをパスしない行動を書いてしまうのも、よくある間違いです。
例えば「A:大学受験 → B:試験に合格する → C:嬉しい」といったような記述です。
これは少し考えれば分かりますが、試験に合格することは結果であって行動ではありません。
やろうと思って合格を「行う」ことはできないはずですし、嬉しいという結果によって試験に合格することが強化され、繰り返し合格するようにはなりません。
これが「勉強する」といった表現であれば行動になります。
例えば「A:大学受験 → B:毎日○時間勉強する → C:試験に合格する」であればいいでしょう。
2つのダイアグラムは補い合っている
最後に本稿でお伝えした内容の補足です。
今回、ABC分析と行動随伴性ダイアグラムという2種類の書き方をご紹介しました。
どちらも行動の前後がどうだったかを記述しますので、2つのダイアグラムの違いが分かりにくく、ごっちゃになってしまいがちです。
しかし、この2つのダイアグラムは互いを補い合っています。
ABC分析では文脈の中で行動がどう機能しているか、つまり行動の目的であったり役割であったりといったものが把握できます。
一方、行動随伴性ダイアグラムでは、好子や嫌子が行動に伴いどのように変化しているかを把握しやすくなっています。
両方のダイアグラムを理解することで、行動を複数の視点で分析できるようになります。
次の例で考えてみると分かりやすいかと思います。
行動は全く同じ「昼過ぎに起きる」です。
ABC分析だと「A:日曜日だった → B:昼過ぎに起きた → C:すっきりした」といった記述になります。
もしこれが平日という文脈であれば、スッキリするどころじゃなくて焦ったりすることになりますが、日曜日という文脈であれば問題ないことが分かるわけです。
一方、行動随伴性ダイアグラムだと「直前:睡眠不足あり → 行動:昼過ぎに起きた → 直後:睡眠不足なし」といった記述になります。
睡眠不足というのは嫌子になりそうですね。
その嫌子が昼過ぎに起きるという行動によって消失または減少することがわかります。
つまり、嫌子消失による強化ということですね。
ABC分析と行動随伴性ダイアグラムのどちらを使用するかで、分析するものや見えてくるものが変わります。
ですので、どちらか一方だけというよりは、両方とも使えるようにしておいた方が便利でしょう。