行動分析学研修 基礎理論編をお伝えします。

一般社団法人 行動アシストラボの榎本です。

今回は基礎理論第1回、循環論からの脱却を説明していきます。

一般的な見方と行動分析学的な見方

循環論を説明するにあたって、まず一般的な行動の見方と行動分析学的な見方の違いからお伝えします。

一緒に見ながら考えていきましょう。


朝、同僚に挨拶する場面です。

朝、職場に出勤したときに、同僚に「おはよう」と声を掛けると「おはよう」という返事が返ってくる。

日常の1シーンですが、一般的な見方で説明すると、こんな感じになります。

  • 同僚に「おはよう」と声を掛けたから「おはよう」という返事が返ってきた。

当たり前のように思えますが、これを行動分析学的な見方にすると変わってきます。

  • 同僚に「おはよう」と声を掛けたら返事がもらえたことがあるので「おはよう」と声を掛けた。そうしたらまた「おはよう」という返事が返ってきた

一見、どこがどう違うのか分かりにくいですが、「過去に返事がもらえたことがある」に注目してください。

「おはよう」と自分から行動したのは、実は過去に返事がもらえたことがあるという経験が大きいのです。

これが行動分析学的な捉え方。


同じような挨拶のシーンで別の例を見てみましょう。

昨日、朝出勤してきた同僚に「おはよう」と声を掛けたらたまたま無視された。今日出勤したときにその同僚がいた。

さぁ、どうでしょうか。

行動が少し変わってくる気がしないでしょうか。

挨拶しようとするけどなんとなく気まずい。

昨日という過去に、たまたま無視されたという経験によって、挨拶をするという行動に変化が現れます。

ここら辺りをしっかり分析できるのが行動分析学です。

行動分析学的な見方をぜひ身につけていきましょう。



改めて説明すると、私たちはその状況で、過去どんな体験をしたかにより、次にまた同じような状況になったときにどう行動するかが変わってくるということです。

私たちが行動できる行動できないというところには、実は、過去にどんな体験をしたかということに影響を受けているところが非常に大きいのです。

循環論という問題

では次を見ていきましょう。

今回の一番のテーマでもある「循環論」についてお伝えします。

また例で見ていきましょう。


A君はよく遅刻します。
A君はなぜ遅刻するのでしょうか?

そう聞くと、周りの人・上司・友人は「やる気がないから」などと答えることが多いです。

では、ではなぜA君はやる気がないと感じるのか?なぜやる気がないとわかるのか?と聞くと「よく遅刻しているから」と答えます。

  • なぜよく遅刻するのか? → やる気がないからでしょ
  • なぜやる気がないと思うのか? → よく遅刻するから

やる気のように一般的には原因と捉えられるようなものは、実は説明が循環していてどちらが先でどちらその結果なのかが曖昧なのです。

もっともらしく聞こえるが同じことを違う表現で言っているだけ。

これは原因を特定しているのではなく、単にレッテルを貼っているだけ。

よく遅刻するというその人の状態を「やる気がない」という言葉で変換して表しているだけなのです。

ここに気づくところから、行動分析学的なアプローチがスタートします。


他の例でも見ていきましょう。

同じような例ですが、全て「責任感」や「だだっ子」「ダメなやつ」「浪費家」などとレッテルを貼っているだけで、行動の正しい原因を説明できていません。

行動を見てこういう人だとレッテルを貼って、別の表現で表しているだけです。

個人攻撃ではなく行動の原因にアプローチする

一般的な見方で行動の原因を説明すると循環論に陥り、正しい原因に気づくことができません。

一般的な見方から行動分析学的な見方へシフトしましょう。

イラストのシーンを見てください。


授業中の一場面です。

A君とB君という2人の子どもがいます。

このイラストを見て一般的な視点で説明すると、循環論に陥りがちです。

B君がいたずらをしている。
なぜですか?
B君がいじわるだからです。
だからいたずらしているのです

つまり先ほど伝えました個人攻撃の罠に陥っているということです。

B君はいたずらっ子だと決めつけています。

行動を見て、主観的な表現に言い換えて、それを原因にしてしまっています。

循環論に陥り、個人攻撃の罠にはまってしまうと、問題を解消するためにどうするかというと、先生が「B君いたずらしちゃダメでしょ」と注意する、そしていたずらをさせない、禁止しようとするという方法になります。


一方、行動分析学的な視点だと介入の方法は変わります。

まず行動分析学的な視点では、具体的な行動に着目します。

「死人テスト」と「具体性テスト」とありますが、これは具体的な行動の見方・特定の仕方で、また別の章でお伝えします。

ここでは具体的な行動だけを見るという点に注意してください。

  • B君がA君の鉛筆を取っています

一般的な視点では「B君がいたずらをしている」としていましたが、いたずらしているかどうかはわかりません。

いたずらではない何か別の理由かもしれません。

ですので、ただ単に取っているというところだけを見るのが行動分析学的な視点です。

主観を入れないということ。


ではなぜB君はA君の鉛筆を取っているのでしょうか。

いたずらっ子だからでしょ、という一般的な視点ではなく、B君がA君の鉛筆を取った時に何が起きているのか、行動の前後の変化に着目します。

  • A君からB君の手元に鉛筆がなかった状態、鉛筆があるような状態になった。手元に鉛筆が手に入る。

あるいはこういう変化も考えられます。

  • 先生が注目していなかった状態から、先生が注目するようになった。A君も注目している。

もしかしたら周りの友達も注目しているかもしれません。

このようにB君が行動した後に何が起きているのかというところを、具体的に客観的に見ていきます。


そうすることで何が変わるかというと、改善するための介入方法が変わります。

仮に「注目」が行動を強化している、つまり注目されているという状態がB君の行動を起こしていると判断したなら、不適切な行動である「鉛筆を取る」に対して、注目をしない・注目の提示を中止するという改善方法が考えられます。

加えて、不適切な 「鉛筆を取る」という行動ではなく、真面目に授業を聞くという適切な行動に注目を提示します。

鉛筆を取らず、先生のお話を聞いている時にB君に「よく聞いているね」などと注目してあげます。


まとめると、行動の責任を行動する当人にのみ押し付ける・責めることを「個人攻撃の罠」と言います。

いたずらっ子だからというのが、まさしくB君に押し付けて責めてしまうことで、彼が悪い、彼がいたずらっ子だから問題が起きる、と考えます。

個人攻撃には、他人を責めるだけでなく自分自身を責めることも含まれます。

例えば勉強がなかなか続かないのは自分はだらしがないからだ、忘れ物が多いのは責任感がない、甘い、危機感がないからだ等と、自分の行動がうまくいかないことを自分自身の性格や人間性に求めることがあります。

実はこれも個人攻撃の罠。

改善するにしても、先ほどの「いたずらしてはダメでしょ」と同じようになってしまうので、うまく改善できません。

こういったところを行動分析学的な視点で見られるようになり、環境の変化に着目しより建設的な改善策を考えることが、行動を変容する科学的なアプローチの第一歩となります。


以上、第1回 循環論をお伝えしました。

今日お伝えしたのは「一般的な視点」と「行動分析学的な視点」は何が違うのか、そしてその見方ができると個人攻撃に陥るのではなく、環境の変化から行動の原因にアプローチする改善策が考えられるようになる、ということについてお伝えしました。

ありがとうございました。

次:レッスン2. 行動とは何か?