
書籍紹介『行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由』杉山尚子著(集英社新書)です。
担当は愛里です。
「行動分析学入門」のキーワードをインターネットで検索すると2種類の本が出てきます。
そのうちの「薄い方」「小さい方」が本書です。
(もう一方は「青本」「大きい方」「分厚い方」→書籍紹介「産業図書 行動分析学入門」参照)
本書のあとがきにもありますが、”大きい方”の「行動分析学入門」はあまりにも大きく、分厚く、内容も専門的であり、どこが入門なんだという一言をこぼさずにいられません(笑)。しかし、その学問の有用性と社会への必要性を鑑みるにもっと学びやすい”入門書”があるべきと考えた勇気ある男性が著者に申し出たことから本書が完成したとのこと。
そのなめらかな表現から、専門的ではあるものの比較的頭に溶け込みやすく書かれた本書を、今回は紹介いたします。
概要を掴むならまず76ページまで
著者である杉山さんに対して好感が持てるところのひとつが、その表現です。
端的に短い言葉で多くを理解させてくれるのです。説明が全く間延びせず、かつとても理解しやすいように丁寧にほどかれて書かれています。
驚くべきは、”大きい方”では全28章、380ページにもわたって説明されている内容を、本書はたったの190ページ足らず(しかもサイズが小さい)で”大きい方”の5割近くの概要を網羅しています。
「5割」と聞くと少なく感じるかもしれませんが、行動分析学の基礎を押さえる上では十分な範囲です。
とにかく短時間で行動分析学のなんたるかを掴みたい!とお急ぎの方には、まず76ページまで読むことをおすすめします。
たったの76ページで基本的な考え方を押さえられるのです。
まさに初心者向けの「教科書」
例えば、すでに行動分析学的なアプローチを現場で使われている方が、そのスキルを知識と結びつけようと思うなら本書は次の3つの点でオススメです。
1つ目は、ボリューム。
たった190ページ足らずで基本原理を学ぶことができます。
2つ目に、そのわかりやすさ。
杉山さんの文章は流れるようで、しかも一つの説明を終えたところで浮かびそうな疑問に対しても、わかりやすい例を用いて流れのままに解き明かしてくれますので違和感なく理解が進みます、
最後の3つ目は、歴史的な系譜も書かれていること。
理論の説明だけではない。そして事例だけでもない。行動分析学の創始者と言われるスキナー氏に関する話のみならず、スキナー氏以前の心理学他の系譜についても触れているので、学問の流れも知ることができる、まさに「教科書」と言えます。
おすすめな人、おすすめしない人
行動分析学との出会いは人によって様々あると思います。
現場で用いている方、セルフマネジメントに使いたい方、研究学問として深めたい方、などなど。
行動分析学の基礎原理を学ぶことは、数学で公式の成り立ちや原理を知ることと似ていると思います。
みなさんが今数学でいうなら、とにかく問題を解けるようになりたいのか、それともより広範な問題に応用できるように公式の成り立ちから知りたいのかによって、本書がおすすめかどうかが変わります。
もしあなたが今、自分の現場スキルの向上を目的に、すぐに使えるより多くの事例に触れたいと思っているのなら本書はおすすめしません。おそらく現場事例に関する他の書を探す方が得策でしょう。
でも、もしあなたが今、さらなるスキル向上を目指して、根本原理から、その考え方自体から学び・体得したいと考えているなら、その基礎づくりの手始めとして本書をおすすめします。
各用語の考え方や定義などを、正確に丁寧に説明している本書は、”大きい方”の次の教科書としておすすめできます。
「メリットの法則」と迷ったら
両書とも、導入、初学としてはとても入りやすい本です。なので、どちらでもいいとも言えますが、ここであえて違いを述べるとしたら、選ぶ観点は次のようになります。
【行動分析学入門(本書)】
★文学的表現に慣れている方
★普段、ビジネス書や哲学書などの固めの本も読まれる方
★最初からより多くの用語・考え方を知りたい方
【メリットの法則】
★療育に関係する方
★普段あまり活字を読まない方
★風刺がかった笑いの要素も好きな方
★まずはライトに全体像を感じたい方
☆書籍紹介「メリットの法則」参照
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▶︎行動分析学入門 ヒトの行動の思いがけない理由
とりあえず、順番はさておき、最終的には両書とも読まれることをおすすめして筆を置きたいと思います。